お米と農産物先物市場

― 令和の米騒動と先物取引の意義 ―

2026-05-08

はじめに
第1章 令和の米騒動 ― 米が不足する時代に入った
第2章 金融論的視点 ― 先物は資本主義の最高の花
第3章 先物取引誕生の歴史
第4章 概算金・買取り・委託販売 ― 堂島と連動する必然
第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める
第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇
結び
質疑応答

1-1. 需要は誰がどう判断するのか

 「米が不足する時代に入ったか」と問われれば、私は「入った」と答えます。
 減反政策は、いまは「需要に応じた生産」という綺麗な言葉で語られています。しかし需要を判断するのは大臣ではありませんし、農林水産省が作る米の需給計画でもありません。政府の見通しは必ず間違えます。なぜなら、そこには政府の「こうしたい」「こうあるべきだ」という意図が入り、数字をねじ曲げるからです。
 英国のチャーチルは嘘には三種類あると言いました。小さな嘘、大きな嘘、そして統計です。統計には、こうありたい、こうすべきだ、こうなるはずだ、という意図が加えられます。「はず」と「べき」は要注意の言葉です。〈世の中は「はず」と「べき」とで大間違い、初めがっかり、やがてがっくり〉、これは私の戯れ歌です。


1-2. 佐竹利光氏が50年前に挙げた15の要因

 昭和46年(1971年)、減反政策が始まったとき、「これから米は足りなくなる。不足する理由は15ある」と指摘したジャーナリストがいました。佐竹利光氏です。今回の令和の米騒動には、そのうち4つか5つが当たっています。
 一つ目はムードによる米不足。マスコミや噂です。テレビが「スーパーの棚に米がない」と映せば、人は買い増しに走ります。
 二つ目は災害による不足です。昔の災害は9割方が冷害で、「寒さの夏はオロオロ歩き」と宮沢賢治が書いたように、寒さが主な問題でした。「日照りに不作なし」という言葉もあり、気温が高ければ不作にはならないとされてきた。米の世界では出穂後の平均気温を日々足していって、積算温度が1000度に達すると稲刈りができる、というほどです。
 ところが今は違います。日照りで気温が上がりすぎると、稲は大きくなろうとするのですが中身がない。粒は大きくてもカスカスになる。選別の際、ふるい目の上には残っても、玄米から精米に回す過程で忍者のように消えてしまう。2023年、2024年の日照りの年はまさにそうでした。これで50〜60万トンが、当てにしていた人たちの手に入らなくなり、主食用の米を取りに回ったため価格が高騰しました。
 9番目の政府の見通しの外れ、12番目の消費増(インバウンド需要)が続きます。インバウンドについては、コロナ前にも3千万〜3千500万人の訪日があったわけで、急に米の消費量が増えたとは考えにくい。「生産見通しは正しかったが需要が増えた」というのは言い訳であり、実際は作るところ、生産段階から間違っていた、というのが私の見方です。


1-3. 世界の要因 ― この世の中はリスクがいっぱい

 もう一つ、国際的な要因があります。戦争で入ってこなくなる穀物(ウクライナの小麦・トウモロコシ)、大産地アメリカのコーンベルトの作柄。セントルイス付近からミシシッピ川をバージでニューオーリンズまで運びますが、水量が下がればパージ(運搬船)が底を打って運べず、凍結しても動けません。運送上のリスクがあります。
 パナマ運河の入口や出口が閉鎖されれば物は来ない。港湾労働者がストライキを打てばまた止まります。この意味で、世の中はリスクに満ちています。
 今日時点の直近のニュースですが、ホルムズ海峡が封鎖されると日本には肥料が入ってこなくなります。肥料は石油よりは中東依存度が低いものの、なお4〜5割は中東に頼っており、その入荷が止まります。そうなるとアメリカのソイビーンベルト・コーンベルトの農家は、大豆とトウモロコシのどちらを作るかを判断する際、大豆を選ぶようになります。大豆はマメ科で根粒菌が窒素固定をしてくれるため、肥料が相対的に少なくて済むからです。
  第二次世界大戦中のナチスドイツは、輸入を断たれたことで空中窒素を固定する方法(ハーバー・ボッシュ法)を発明しました。必要は発明の母、です。いずれにしても、この世の中はリスクがいっぱいだ、ということを押さえておいてください。

(⇒次回 1-4. 統計は警告していた ― ただし縦割りで活かされなかった
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