
お米と農産物先物市場
― 令和の米騒動と先物取引の意義 ―
2026-05-18
| はじめに |
|---|
| 第1章 令和の米騒動 ― 米が不足する時代に入った |
| 第2章 金融論的視点 ― 先物は資本主義の最高の花 |
| 第3章 先物取引誕生の歴史 |
| 第4章 概算金・買取り・委託販売 ― 堂島と連動する必然 |
| 第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める |
| 第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇 |
| 結び |
| 質疑応答 |
第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める
5-1. 投機性は欠点ではなく機能である
米の先物取引はおよそ70年止まっていました。その間に統制経済が「常識」になり、「先物は怖い」「効果がない」という誤解が広がった。そこを修正しておかねばなりません。
投機性があるのは当然です。リスクを引き受けてくれる参加者が多いからこそ、生産者や卸業者はリスクを自分で全部背負わずに済む。リスクの分散こそ先物市場に必要な機能なのです。
5-2. 保険との違い
保険は、加入者全員のお金をプールし、その範囲内でしか支払えません。東日本大震災の地震保険は、英国のロイズ保険組合に再保険をかけて対応していました。その後ロイズは、損失が出たので、掛金の25%値上げを通告しています。
米の場合、再保険のロイズに相当するのが国でした。平成5年の冷害(作況指数74)の際には、国が約2400億円を支出しなければ保険金が支払われない状況になった。掛け金プール額の上限を超えたわけです。
先物取引であれば、リスクテイカーとヘッジャーが釣り合い、「今回は損をしても次は儲けよう」という参加者が常にいる。その相互のバランスで機能します。
投機家への戒めはこうです。「まだはもうなり、もうはまだなり」、「見切り千両」―「まだ上がる」と言い続ければ必ず痛い目に遭う。「半値八掛け二割引き」― 儲かると思った額の半分の8掛けのさらに2割引きまで落ちることもある。儲かったら逃げる ― これを「利益の確定」と言います。何ら悪いことではありません。
5-3. 主食論の誤り ― 価格が上がれば消費は減る
「主食だから価格が上がっても消費量は変わらない」と言う人がいますが、そんなことはありません。現実には、台湾米でもカリフォルニア米でもよいのです。パスタ業界はいま米価高騰の恩恵を受けていますが、工場の増設はしません。いつ米が下がるか分からないからです。これが経済の論理です。
「米は値段が上がろうが下がろうが食べる量は同じ」というのは、すでに、石破農林水産大臣時代に間違いであることが証明されています。1割上がれば3割減るということもあり得ます。
5-4. 歴史の証明 ― 吉宗は先物で米価を上げた
先物取引復活時、JA全中は「米価はどんどん下がっている、先物をやったらもっと下がる」と反対しました。しかし1730年の米先物誕生は、むしろ逆で、吉宗と大岡越前が「米価を上げるため」に始めたものです。歴史がそれを示しています。
堂島にはユーモラスな風習がありました。取引終了を告げるとき、買い手と売り手の間に取引所の人間が桶の水を撒いたのです。時計のない時代ですから、水が撒かれたら商いは終了、というわけです。
似た話で、神楽坂など花街には「線香が燃え尽きるまで」という時間の測り方がありました。お客が「もう少し」と思えばもう1本立てる。そうでなければ「そこでおしまい」、なんと粋な時間の計り方ですね。落語家が話していました。
5-5. 銘柄格差と受渡しの課題
米の産地銘柄は多様ですから、先物のような大括りの上場では、思い通りの品物が渡らないという指摘があります。堂島は現在、平均指数です。平均からどれだけ離れたところに自分の米があるか ― これを誰もが簡単にわかる仕組みが必要です。
今回、政府備蓄米の買入れ21万トン枠に対して応札1万トンという結果が出ました。政府備蓄米は産県・品種銘柄・受渡期日・価格・数量を細かく指定する入札です。先物では、受渡しが合わない場合は金銭で差額調整する「裁定法」があり、高い品物を渡す分には差額なし、安い品物を渡すときは売り手が差額を払う、という公平な仕組みでした。堂島はまだその途上です。
「現物取引の方が安心」という声もありますが、実際には、現物には代金未収や破損といった問題があります。先物には法律上必ず清算機関が置かれる点で、信用面の安全性はむしろ高い。
「北海道の生産者が小豆の先物で損をした」という話もよく持ち出されます。これはリスク回避のための保険をかけたケースではなく、利益を狙ったことに問題がありました。スペキュレーターとヘッジャーは違います。論より証拠、北海道最大の生産者団体ホクレンは、かつての東京穀物商品取引所の小豆取引では常に中心的なプレーヤーでした。知っている人は知っている。ただ、梶山季之の小説『赤いダイヤ』の影響が大きすぎたのでしょう。
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