
お米と農産物先物市場
― 令和の米騒動と先物取引の意義 ―
2026-05-19
| はじめに |
|---|
| 第1章 令和の米騒動 ― 米が不足する時代に入った |
| 第2章 金融論的視点 ― 先物は資本主義の最高の花 |
| 第3章 先物取引誕生の歴史 |
| 第4章 概算金・買取り・委託販売 ― 堂島と連動する必然 |
| 第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める |
| 第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇 |
| 結び |
| 質疑応答 |
5-6. 現物・先渡し・先物の連携 ― 海外需要の取り込み
現物市場・先渡し市場・先物市場がそれぞれ機能を果たし、連携することで、海外需要の拡大を含む米の商品化が進みます。いくら優れた米でも、国際価格とかけ離れていれば買ってもらえない。価格は国際価格に合わせ、生産者には税金からの所得補償で差額を補う。それによって日本米は海外に出ていけます。
世界の貿易に乗る米は概ね5千万トン規模です。さらに付加価値の高い形 ― 米粉、パックごはん、せんべいなどの米菓、そして日本酒 ― で出していけば、付加価値は国内に落ち、生産者の所得は守られます。
5-7. 先物市場の機能 ― 集散・価格形成・需給調整・保管・保険
市場の機能を五つ揚げました。集荷・分荷、価格形成、需給調整、保管、そして保険機能。
保管機能について補足します。今が4月で、6か月先の10月受渡しの価格が出ていたとします。そうすれば、4月から10月までの保管料・金利が価格に含まれているため、参加者は別途保管料を負担しません。通常、先の限月ほど価格が高い状態を「コンタンゴ」と言います。需給が乱れれば手前が高い「バックワーデーション」もありますが、基本はコンタンゴです。
保険機能については、これからは保険と先物の組み合わせが重要になります。中国の大連市場では実際に売買している多数の者は保険会社です。生産者は保険会社と契約します。また、アメリカの収入保険はシカゴ先物価格に作付面積と予想収量を掛け合わせ、実績がそれを下回れば差額が保険会社から金銭で保険金として支払われる仕組みです。保険と先物の組み合わせが、これからの方向性だと思います。
5-8. 先物は体温計 ― 東京大学八木宏典名誉教授の研究
「先物は価格変動を大きくする」という批判に対して、東京大学の八木宏典名誉教授が35年間の分析を行っています。正米(現物)の変動率11.2%に対し、期米(先物)は8.9%。先物の方が値幅が小さく、現物の上下変動を是正するように動く、という結論です。
かつての東京は、蛎殻町に先物市場、深川に正米(現物)市場があり、両者は常に連携し、先物の決済期には現物価格と一致する運営がなされていました。手仕舞い1か月前からはスペキュレーターは入れず、実需者しか参加できない ― そうした仕組みで秩序が保たれていたのです。
先物市場は、いわば人間の体温計です。熱があるときに人為的に上限を設定しても、熱は下がらず、手当てが遅れて取り返しがつかなくなる。価格発見機能と需給誘導機能を無力化してはなりません。
第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇
最後のエピソードをお話しします。大正7年(1918年)、富山の沿岸で起きた米騒動 ― 米蔵に踏み込む乱暴狼藉にまで発展した有名な出来事です。
当時の農商務大臣・仲小路廉(なかしょうじ れん)は、相場師の有力者・増田貫一に「先物取引が騒ぎの元凶だ、やめてほしい」と言います。増田は、警察に引っぱられることもいとわず、こう反論しました。
「米価の高騰は、需給と金融の超緩みで起きている。いくら相場師を叩いても米価は下がらない。もし力ずくで抑えようとすれば、端境期には品不足になって大変なことになる」
現物を持つ者こそ強い。現物保有者の行動を是正するのに相場が必要、先物が必要 ― これが増田の主張でした。結局、先物取引は停止され、指標を失った結果、価格の暴走に歯止めはかからなくなりました。
経済原則を無視した、あるいは無知な政治・行政は、時に国民の目を逸らすために攻撃のターゲットを作ります。それがこの米騒動における鈴木商店と、同社の大番頭・金子直吉だったのです。一時は三井物産を抜くかとまで言われた鈴木商店は、この騒動を境に弱体化していく。余談ですが、金子直吉という人は面白い人で、戦時下で土嚢の砂が足りないとなったとき、「倉庫の米や麦を袋に詰めて出せばよい」と言うほど、国を思う気持ちが人一倍強かったとか。『大番頭・金子直吉』(鍋島高明著)が残されています。
リンク
©2026 Keizai Express Corp.