
お米と農産物先物市場
― 令和の米騒動と先物取引の意義 ―
2026-05-12
| はじめに |
|---|
| 第1章 令和の米騒動 ― 米が不足する時代に入った |
| 第2章 金融論的視点 ― 先物は資本主義の最高の花 |
| 第3章 先物取引誕生の歴史 |
| 第4章 概算金・買取り・委託販売 ― 堂島と連動する必然 |
| 第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める |
| 第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇 |
| 結び |
| 質疑応答 |
1-7. 備蓄米放出と入札不調
放出が決まってからも、江藤農林水産大臣はゆっくりと対応し、1万トンずつ放出しました。その後、小泉農林水産大臣が「ジャブジャブになるまで出す」と公表し、100万トンある備蓄のうち約60万トンがすでに放出されています。残り30万トンのうち最も古い米が、本当に食用になるのかは疑問です。
荒幡克己教授は『農政調査情報』誌で、令和米騒動の根本原因は約70万トンの供給不足だと解説しており、数字は合います。にもかかわらず、農業団体はまだ強気です。4月14日、令和8年産米について備蓄米の入札が行われ、政府買入れ枠21万トンに対して、応札で契約に至ったのはわずか1万トン。つまり生産者団体は予定価格を超える高値でなければ応じない、という姿勢なのです。
1-8. 需要を決めるのは市場である
整理します。「需要に応じた生産」「再生産コストを償う」とよく言われますが、「需要は誰がどう決めるのか」。政府の計画に応じるのを「需要に応じた」と呼ぶのは嘘です。需要を判断するのは市場です。余れば安くなり、不足すれば高値がつく。これが市場の役割です。
しかし今、将来価格を示す市場が不十分です。現物価格はJA全農と卸業者との相対取引、業者間のスポット取引では出ますが、「この秋の米はいくらか」という将来の価格は誰も示していない。政府の備蓄買入れはまさに「この秋の米」(将来価格)の入札なのに、指標がない状態です。
先物市場が存在すれば、多くの参加者が情報を持ち寄って、このくらいの需要、このくらいの生産、だから価格はいくら、と提示し合う。それが「需要に応じた価格」を示し、生産を誘導する。4月ならば翌年2月までの先物指標価格が出るので、来年の作付けがその価格で回るのかを判断できる。かつての先物の担い手は「財界指導作用」という言葉を誇りをもって使っていました。経済界に対して、我々は「頭で考えるだけでなく、現場で先を見ている」というわけです。
今の日本の農林水産省の需給予測は1年に3回ほどしか出ません。毎日米を食べているのに、です。アメリカ農務省は世界中の米の生産・需要・輸出入・在庫の見込みを毎月出しています。食糧法の改正で「国も地方公共団体も参考になる数字を出さねばならない」と規定するまでもなく、自由にしておけば市場はちゃんと数字を出します。
1-9. 消費者と生産者を引き離さない
世界の農業政策の潮流は、消費者と生産者を離反させないことです。消費者にはリーズナブルな価格で供給し、生産者の継続には税金からお金を出す。OECDの2023年の数字では、EUで農産物価格に乗せている割合は17%、残り83%は所得補償(税金)です。アメリカは10%対90%。日本と韓国は8割超を価格に乗せており、農業政策の後進国と言われても仕方ありません。
その結果、日本の米の単収(=生産性)は世界でも下位に沈んでいます。精一杯工夫して多く作りたいという希望に応えられない構造になってしまった。
よく「米の国際マーケットは長粒種(インディカ)が中心」と言われますが、実は急速に中粒種・短粒種(ジャポニカ)の取引が増えています。環太平洋地域 ― アメリカのカリフォルニア、オーストラリア、ベトナム、中国 ― でジャポニカ米の一つの市場が形成されつつあります。これからはジャポニカの時代だ、というのが私の見立てです。中国の大連には大きな米のマーケットがあり、先物価格を使って保険的に農家所得を守る方向に進みつつあります。
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