お米と農産物先物市場

― 令和の米騒動と先物取引の意義 ―

2026-05-11

はじめに
第1章 令和の米騒動 ― 米が不足する時代に入った
第2章 金融論的視点 ― 先物は資本主義の最高の花
第3章 先物取引誕生の歴史
第4章 概算金・買取り・委託販売 ― 堂島と連動する必然
第5章 常識と非常識 ― 70年の空白を埋める
第6章 大正米騒動の教訓 ― 鈴木商店の悲劇
結び
質疑応答

1-4. 統計は警告していた ― ただし縦割りで活かされなかった

 米は本当に過剰だったのでしょうか。生産量と需要量の折れ線グラフを見ると、2021年ごろを交差点として、需要に生産が追いつかない状況が統計上も現れていました。食料・農業・農村白書にもその数字は出ています。つまり統計の側は警告していたのですが、縦割り行政で連絡が取れず、「米は10万トンずつ減るから田んぼを減らさねばならない」という方針がそのまま走ってしまった。
 統計は見せ方でいくらでも変わります。縦軸を深くして横軸を狭くすれば急落に見え、横軸を広げて縦を縮めればなだらかに見える。プレゼンテーションとはそういうものなので、皆さん自身が使うときも、他人のものを見るときも気をつけてください。


1-5. ふるい目と「見えない不足」

 苦肉の策として昨年10月から、需給表に新しい欄が設けられました。従来の「生産者ふるい目幅以上(C)」に加え、「ふるい目幅未満のうち主食用への供給見込み量」32万トンという欄(D)です。
 生産者は通常1.85mm幅のふるいで選別します。1.85mm以上が一般的な「主食用」、1.85〜1.7mmが「何とか食べられる」範囲で、これが約32万トン。この米をせんべいなどの米菓や酒造りで使ってきたわけです。ところがこの部分が減ると、せんべい屋や酒蔵は一つ上の1.85mm以上の米を取りに行き、主食用市場の価格を押し上げる。5年産・6年産で見ると、1.85〜1.7mmの部分だけで21万トンと25万トン、合わせて46万トンもあります。
 米はもともと粒の大きなものから粉に至るまで、品質に応じてなだらかに価格が形成されるのが正しい姿です。「これは主食用」「これは加工用」「これは酒用」と人為的な壁を作るべきではない。アメリカのトウモロコシは、家畜飼料、コーンシロップ、バイオエタノールなど、品質と数量に応じてなだらかに価格が形成され、仕切り線は入っていません。これが本来あるべき姿です。


1-6. 3万3千円の分水嶺 ― お客が逃げる

 価格はどんどん上がりました。一つの目安として、60kgで3万3千円という水準を置いてみましょう。JA全農が最初に提示した数字で、最終的に消費者のところでは5kg4千円、1kg800円となります。
 1kg800円とはどういうことか。お米券は440円の金券で、できたころは1kg相当でした。つまりお米券1枚では1kgは買えず、2枚必要になる。米をたくさん食べる人ほど負担が重くなる。そして、この水準を超えると外国から米が入ってきます。
 実際、日本銀行の社員食堂が台湾米を出し、セブン-イレブンがカリフォルニア米でおにぎりを作り、牛丼チェーンが国産米とカリフォルニア米をブレンドしました。価格を上げるということは、お客を逃がすということです。逃げた客はすぐには戻りません。
 石破総理は「5kg3千円台の下の方」と言いましたが、これは理にかなっています。日本一の米卸である神明(兵庫県神戸市)の社長も「5kg3千5百円まで下げなければ、最も怖い消費の減退につながる」と言っています。三菱総研の稲垣氏は「60kg2万円、精米で3千2百円」を穏やかな線としています。私が新潟や長野県の北アルプスの勉強会で生産者と話しても、同じです。生産者は「高ければよい」とは言っていない。高くなれば客が逃げ、生産の持続ができなくなる、と言っているのです。
 価格を「天井知らず」にしようと言っているのは、政府と一部の農業団体だけだろう、と私は見ています。

(⇒次回 1-7. 備蓄米放出と入札不調
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